テキサスホールデム。ルール・役・確率の計算から、相手の手を集合として数える技術まで。
第1部
ポーカーの初歩
ルール・役・用語・確率の計算まで、だいたい1時間ぶん。
自分だけが見える手札(ホールカード)2枚と、全員で共有する場の5枚(コミュニティカード/ボード)。この7枚から最良の5枚を選んで役を作り、強さを競います。
「プリフロップ・フロップ・ポストフロップ」は並列ではありません。
フロップの前か後かで全体を2分するのがプリフロップ/ポストフロップ。その「後」の内訳がフロップ・ターン・リバーです。ポストフロップは3つのラウンドをまとめた呼び名。
| 用語 | 意味 | 選べる条件 |
|---|---|---|
| フォールド | 降りる。出したチップは戻らない | いつでも |
| チェック | 賭けずにパス | 未払いの賭け金が無いときだけ |
| ベット | そのラウンドで最初に賭ける | 未払いが無いとき |
| コール | 直前の額と同額を出して継続 | ベットがあるとき |
| レイズ | 上乗せして賭ける | ベットがあるとき |
ベットがある状況ではチェックできません。フォールド・コール・レイズの3択になります。
ディーラーボタンが1周ごとに時計回りに移動し、その左がSB(スモールブラインド)、さらに左がBB(ビッグブラインド)。この2人だけが強制ベットを出します。「強制参加費を払ったり払わなかったり」するのはこの仕組みです。
フロップ以降は常にSBから順に行動し、ボタンが最後。後に行動できるほど相手の情報を見てから決められるので有利です。これをポジションと呼び、後に動ける側をインポジション(IP)、先に動く側をアウトオブポジション(OOP)と言います。
「ボタンでは広く、アーリーポジションでは狭く参加する」というレンジ表は、この原理を表に落としただけのものです。
チップが少なくても、オールインにコールできます。
テーブルステークス制により、その場に持っているチップ以上は賭けられず、要求されることもありません。持ち分だけ出して「オールインでコール」となり、相手の超過分は他のプレイヤーとのサイドポットとして分離されます。あなたは自分が拠出した範囲(メインポット)だけを争います。
つまり、チップ量で押し潰される構造にはなっていません。
強い順に9段階。暗記は不要です。出現確率が低い順に強いという一本の原理で導けます。
| 順 | 役 | 形 | 7枚での出現率 |
|---|---|---|---|
| 1 | ストレートフラッシュ | 同スートで5枚連続 | 0.031% |
| 2 | フォーカード | 同ランク4枚 | 0.168% |
| 3 | フルハウス | 3枚+2枚 | 2.60% |
| 4 | フラッシュ | 同スート5枚 | 3.03% |
| 5 | ストレート | 5枚連続 | 4.62% |
| 6 | スリーカード | 同ランク3枚 | 4.83% |
| 7 | ツーペア | 2枚+2枚 | 23.5% |
| 8 | ワンペア | 同ランク2枚 | 43.8% |
| 9 | ハイカード | どれでもない | 17.4% |
最上位のストレートフラッシュ(A-K-Q-J-10)をロイヤルフラッシュと呼びますが、役の種類としてはストレートフラッシュの一部です。ハイカードの出現率がワンペアより低いのは、7枚もあるとペアが揃ってしまうためです。
今の時点で、残りのカードがランダムに出たときポットのうち自分が取れる期待割合。単なる勝率に、引き分けの按分を含めたものです。
下の数値は、残りの全ボードを網羅して計算した実測値です。
| 対戦 | 前者のエクイティ | 網羅したボード |
|---|---|---|
| A♠A♥ vs K♦K♣ | 81.26% | 1,712,304通り |
| A♠K♠ vs Q♦Q♣ | 46.21% | 1,712,304通り |
| A♠A♥ vs 7♦2♣ | 87.42% | 1,712,304通り |
注目すべきは2行目です。最強クラスのAKでも、QQ相手には5割を切ります。ポーカーが「強い手を持てば勝つ」ゲームではない理由がここにあります。
自分の手を勝ちに変えてくれる、まだ見えていないカードの枚数。フロップ時点で同スートが4枚揃っていれば、残りの同スートは9枚なので9アウツです。
| 形 | アウツ |
|---|---|
| フラッシュドロー(同スート4枚) | 9 |
| オープンエンドストレートドロー(両端が伸びる) | 8 |
| ガットショット(内側1枚だけ足りない) | 4 |
| ポケットペアからスリーカードを狙う | 2 |
アウツ数 × 4 = リバーまでに完成する確率(%)の概算。残り1枚しか見ないなら × 2。近似式ですが、実測との誤差を確認しました。
| ドロー | 実測(リバーまで) | ×4 | 実測(次の1枚) | ×2 |
|---|---|---|---|---|
| フラッシュドロー(9) | 35.0% | 36% | 19.1% | 18% |
| オープンエンド(8) | 31.5% | 32% | 17.0% | 16% |
| ガットショット(4) | 16.5% | 16% | 8.5% | 8% |
| ポケットペア(2) | 8.4% | 8% | 4.3% | 4% |
誤差1%以内。暗算で十分実用に耐えます。
コールに必要な額 ÷ コール後のポット総額 = 勝つために最低限必要な勝率。
ポットが100、相手のベットが50のとき——
コール額は50。コール後のポット総額は 100 + 50 + 50 = 200。
必要勝率 = 50 ÷ 200 = 25%。
手持ちのエクイティが25%を超えていればコールが得、下回れば損です。
よくある間違いは、分母を「相手のベットを含めたポット(150)」にしてしまうこと。自分のコール額も分母に入ります。
エクイティ > ポットオッズ ならコール。ポーカーの計算は、ほぼこの一行に集約されます。
各結果の損益 × 確率の総和。上の比較は、コールのEVがプラスかマイナスかを判定しているにすぎません。ポーカーの全判断はEV最大化に還元されます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| レンジ | 相手が持ちうるハンドの集合。「相手はAKだ」ではなく「この集合のどれかだ」と考える。上達の分水嶺 |
| ドロー | 未完成だが、あと1枚来れば強くなる形 |
| メイドハンド | すでに完成している手 |
| ナッツ | その場面で作りうる最強の手 |
| バリューベット | 自分より弱い手にコールさせて利益を取るベット |
| ブラフ | 強い手が無いのに、相手を降ろす目的で打つベット |
| リンプ | プリフロップでレイズせず、BBと同額だけ払って参加すること |
| 3bet | 再レイズのこと。BBの強制ベットを1betと数えるので、最初のレイズが2bet、その上が3bet |
| GTO | ゲーム理論的最適。相手が何をしても搾取されない均衡戦略 |
| エクスプロイト | 相手の偏りを突く戦略。均衡から意図的に外れる |
| BB表記 | 持ちチップをビッグブラインド何個分かで表す。100BBがディープ、40BB以下は浅い |
| レーキ/コレクション | 店の取り分。カリフォルニアの店はポットの割合を取れず、定額で徴収する |
| バンクロール | ポーカー専用の資金。生活費と分離して管理する |
ここには入れていないもの:プリフロップのレンジ表。
「どのポジションでどの手を打つか」の表は、出典と前提(スタック深度・徴収構造・相手の傾向)を確定してから入れます。出所不明の数値を正解として暗記すると、検証できない基準を身につけることになるためです。
第2部
ポーカーの次の一歩
第1部が「1つの手をどう扱うか」なら、ここは「相手の手を集合として数える」技術。すべて算術で導けます。新しく出てくる言葉は、各章の最初にまとめて説明します。
第1部では「相手が何を持っているか」を考えませんでした。ここからが本番です。
初心者は「相手はAKだ」と1点で当てにいきます。上級者は「相手はこの集合のどれかで、その中でAKは16通り、AAは6通り」と数で考えます。この章では、その「16通り」「6通り」がどこから来るのかを、カードを並べて確かめます。
ポーカーでは手札2枚を、ランク(数字)の文字を並べて書きます。大きいほうを先に書き、10は1文字にそろえるため T と書きます(例:AT はAと10)。
このときスート(♠♥♦♣のマーク)そのものは書きません。代わりに、2枚のマークが同じか違うかだけを、末尾の1文字で表します。
つまり「AKs」はハンドの種類の名前で、その中に具体的なカードの組み合わせ(コンボ)がいくつか入っています。次に、それを全部並べてみます。
AA:6通り
Aは♠♥♦♣の4枚。そこから2枚を選ぶ組み合わせは 4 × 3 ÷ 2 = 6通り。A♠A♥ と A♥A♠ は同じ手なので、2で割ります。
AKs:4通り
マークが同じなので、決めるのは「どのマークでそろえるか」だけ。マークは4種類なので 4通り。
AKo:12通り
Aのマークが4通り、Kはそれと違うマークの3通り。4 × 3 = 12通り。AKs のちょうど3倍です。
ここから出てくる、直感を裏切る事実。
AKo は 12通り、AA は 6通り。つまりAKoはAAの2倍配られやすい。AKs と AKo を合わせた AK 全体なら16通りで、AAの約2.7倍です。
相手が強気に振る舞ったとき「AAを持っているかも」と怯えがちですが、数のうえではAKのほうがずっとありそう。これが第1部04章で触れた「レンジ(相手が持ちうるハンドの集合)で考える」の第一歩です。
52枚から2枚を選ぶ組み合わせは 52 × 51 ÷ 2 = 1326通り。これを上の表記でまとめると 169種類になります。種類ごとにコンボ数が違うので、種類の数と通り数は比例しません。
| 種類 | 1種類あたり | 種類数 | 合計 |
|---|---|---|---|
| ポケットペア(AA, KK…) | 6通り | 13 | 78 |
| スーテッド(AKs…) | 4通り | 78 | 312 |
| オフスート(AKo…) | 12通り | 78 | 936 |
| 合計 | — | 169 | 1326 |
ペアはランクの数だけあるので13種類。ペアでない2つのランクの選び方は 13 × 12 ÷ 2 = 78 で、そのそれぞれにスーテッドとオフスートがあります。
169種類を一覧にするとき、ポーカーでは13×13のマス目を使います。縦と横にA〜2のランクを並べ、交わるマスに1種類を置きます。左上の一部だけを切り出すと、こうなります。
同じ2つのランクでも、対角線の右上に s、左下に o のマスが1つずつあります(AKs と AKo は対角線を挟んで向かい合う位置)。「ツール」タブのコンボ電卓は、これを13×13全部に広げたものです。
マスの大きさは同じでも、右上は1マス4通り、左下は1マス12通り。マスの面積で見ると実態を見誤ります。左下を少し塗るだけで、レンジに含まれる通り数は急激に増えます。
コンボで数えられるようになると、次の効果が見えます。自分の手札やボードに見えているカードは、相手の手札には入っていないということです。同じカードは1枚しかないので当たり前ですが、数えると効果はかなり大きい。
相手のAA:6通り → 3通り
A♠ はボードにあるので、A♠ を使う3通り(線を引いたもの)は相手の手札としてありえません。残るのは A♥・A♦・A♣ の3枚から2枚を選ぶ 3通りです。
相手のAK:16通り → 12通り
残っているAは3枚、Kは4枚。3 × 4 = 12通り。
見えているカードが増えたときの通り数をまとめると、次のようになります。
| 見えているカード | 相手のAA | 相手のAK(全体) |
|---|---|---|
| なし | 6通り | 16通り |
| A が1枚 | 3通り | 12通り |
| A と K が1枚ずつ | 3通り | 9通り |
| A が2枚 | 1通り | 8通り |
数え方はいつも同じで、残っている枚数から組み合わせを作るだけです。AAなら残りのAから2枚を選ぶ(残り3枚なら3通り、残り2枚なら1通り)。AKなら残りのAの枚数 × 残りのKの枚数。
Aが1枚見えるだけで、相手のAAは半分に減ります。2枚見えれば6分の1です。このように、見えているカードが相手の組み合わせを削る効果をブロッカーと呼びます。そのカードが相手の手を「ブロックしている」という意味です。
実戦での使い方。
自分がAを1枚持っているとき、相手が AA や AK のような「Aを含む強い手」を持っている通り数は減っています。つまり相手が強い手でコールしてくる可能性が下がるので、そこはブラフ(強い手が無いのに、相手を降ろすために賭けること)に向いた場面です。
逆の場面もあります。相手がブラフに使いそうなカード、たとえばフラッシュを狙って届かなかった手を自分が持っていると、相手がそのブラフを持っている通り数を減らしてしまいます。相手のベットが本物である割合が上がるので、コールの価値は下がります。
ブロッカーは「なんとなく強そうな手を持っている」という感覚とは別に効きます。手の強さではなく、相手の可能性を何通り削ったかで判断するのがポイントです。
ここから3章は、ベットサイズ(賭ける額の大きさ)が決めてしまうことの話です。すべて中学レベルの式から出てきます。
ポットが100、そこに100をブラフで賭けるとします。
相手が降りる確率を s とすると、1回あたりの損益の期待値(第1部03章のEV)がゼロになる点は——
数字を P と B に置き換えます。降りてくれたら P を得て、コールされたら B を失うので——
この「ブラフが損得ゼロになるために、相手が降りる必要のある割合」を α(アルファ)と書きます。
例:ポット90に、1/3ポットの30を賭けるなら α = 30 ÷ (90 + 30) = 25%。4回に1回降りてくれれば元が取れます。
| ベットサイズ | 相手が降りる必要のある割合 α |
|---|---|
| 1/3ポット | 25.0% |
| 1/2ポット | 33.3% |
| 2/3ポット | 40.0% |
| ポットサイズ | 50.0% |
| 2倍ポット | 66.7% |
小さく賭けるほど、ブラフは成立しやすい。「大きく賭けるほど強そうに見えるから得」ではありません。大きく賭けるほど、要求される成功率も上がります。
前章を守る側から見ると、そのまま裏返しになります。
相手のブラフは、あなたが α 以上の割合で降りてくれると儲かります。だから相手のブラフを儲けさせないには、降りる割合を α 未満に抑える、つまり 1 − α 以上は続ければいい。これが MDF です。
例:ポット100に、相手が50(1/2ポット)を賭けてきた。α = 50 ÷ 150 = 33.3% なので、MDF = 100 ÷ 150 = 66.7%。同じような場面が3回あれば、2回は降りずに続けるのが基準です。
| 相手のベット | α(相手の必要成功率) | MDF(あなたが守る最低割合) |
|---|---|---|
| 1/3ポット | 25.0% | 75.0% |
| 1/2ポット | 33.3% | 66.7% |
| 2/3ポット | 40.0% | 60.0% |
| ポットサイズ | 50.0% | 50.0% |
| 2倍ポット | 66.7% | 33.3% |
初心者の最大の漏れは、ここです。
1/2ポットのベットに対して、必要な防御は3分の2。ところが雰囲気でプレイしていると、いい手のときだけコールするので防御率は3割を切ります。
そうなると相手は手札を見ずにベットするだけで勝てます。ブラフが7割成功するなら、必要な33.3%を大きく超えているからです。
ここは正確に書いておきます。MDFは「相手がどんな手でもブラフしてくる」という最悪の前提で、搾取されないための下限です。現実の相手は違います。
つまりMDFは基準線であって、目標値ではありません。それでも最初に覚える価値があるのは、初心者の卓では自分がこの線を大きく下回っている(=降りすぎている)ことがほとんどだからです。まず基準線に近づけるだけで漏れが埋まります。
今度は自分がベットする側の話。強い手だけを賭けていると、相手は「ベットされたら降りる」だけで対応できてしまいます。かといってブラフばかりでは、コールされ続けて破綻する。
ちょうどいい比率は、相手にとってコールしてもしなくても損得が同じになる点にあります。相手がコールしたときに勝つ確率(=あなたのベットのうちブラフの割合)が、相手のポットオッズとぴったり一致すればいい。
例:ポット100に、ポットサイズの100を賭ける。相手は100を払って、ポット100+あなたの100+自分の100=300を取りにくるので、相手に必要な勝率は 100 ÷ 300 = 33.3%(第1部03章のポットオッズ)。あなたのベットのうちブラフがちょうど33.3%なら、相手はコールしてもしなくても損得が変わりません。
| ベットサイズ | ブラフの割合 | バリュー : ブラフ |
|---|---|---|
| 1/3ポット | 20.0% | 4 : 1 |
| 1/2ポット | 25.0% | 3 : 1 |
| 2/3ポット | 28.6% | 2.5 : 1 |
| ポットサイズ | 33.3% | 2 : 1 |
| 2倍ポット | 40.0% | 1.5 : 1 |
「4 : 1」は、強い手で賭ける4回につきブラフを1回混ぜる、という意味です。
大きく賭けるほど、ブラフを増やしてよい。ポットサイズで賭けるなら、バリュー2回につきブラフ1回。1/3ポットの小さいベットでブラフばかり混ぜるのは、比率として成立しません。
これはリバー(最後のカードが出たあと)での話です。まだカードが残っている段階では、ブラフが後から本物の手になる可能性があるので、もう少しブラフを増やせます。
| ベットサイズ | ブラフの必要成功率 | 相手のMDF | バリュー:ブラフ |
|---|---|---|---|
| 1/2ポット | 33.3% | 66.7% | 3 : 1 |
| 2/3ポット | 40.0% | 60.0% | 2.5 : 1 |
| ポットサイズ | 50.0% | 50.0% | 2 : 1 |
サイズを選んだ瞬間に、これら全部が決まります。「なんとなく大きめに」は存在しません。
ここまでは1回のベットの話でした。実際には「このハンドで全チップを入れる覚悟があるか」を、フロップの時点で決めておく必要があります。その物差しがSPRです。
例:フロップの時点でポットが20、自分のスタックが60、相手が200なら、有効スタックは60。SPR = 60 ÷ 20 = 3。
下の表で使う言葉を、実際のカードで確認しておきます。太い枠が手札、細い枠がボードです。
ナッツは第1部04章のとおり、その場面で作りうる最強の手です。
| SPR | 状況 | 全部入れてよい手の目安 |
|---|---|---|
| 〜3 | 浅い。数回のベットで尽きる | トップペアでも十分 |
| 4〜10 | 標準的 | オーバーペア、セット以上がほしい |
| 13〜 | 深い。大きく振れる | ナッツ級を目指す |
この区分は理論的な導出ではなく、経験則です。境界の数字は文献や書き手によって多少ぶれます。
大事なのは数字そのものより、方向です。スタックが浅いほど弱い手でコミットしてよく、深いほど強い手を要求される。理由は単純で、深いときは相手も強い手でしか大金を入れてこないからです。
LAの低いレートのゲーム(ローステークス)は、卓に着くときに持ち込めるチップの額(バイイン)に上限があり、有効スタックが浅くなりがちです。SPRが低い卓では、トップペアで全部入れる判断が正当化されやすい——このことを事前に知っているかどうかで、現地での迷いがかなり減ります。
第1部で「エクイティ>ポットオッズならコール」と書きました。実はこれには但し書きがあります。
35%のエクイティを持っていても、35%ぶんの利益をそのまま受け取れるとは限りません。受け取るには、最後のカードまで見せてもらう必要があるからです。
結果、持っているエクイティを取り切れないまま手が終わります。これを「エクイティを実現できていない」と言います。
同じ35%でも、受け取れる額が変わります。むしろ35%以上の価値が出ることすらある。
「ボタンでは広く、アーリーでは狭く」の本当の理由がこれです。
手の強さが変わるからではありません。同じ手でも、受け取れるエクイティの量がポジションで変わるから、参加してよいラインが動くのです。
実現率が具体的に何%になるかは、相手の傾向やボードによって変わります。方向(OOPで下がり、IPで上がる)だけ押さえておけば、実戦の判断には足ります。
最後は技術ではなく、結果の読み方の話です。実際にお金を賭けるなら、ここを飛ばすと技術の伸びが測れません。
ポーカーの1回ごとの結果は、実力とほとんど関係なくばらつきます。勝てるプレイヤーでも、数千ハンド単位の負け越しは普通に起きます。これを知らないと、正しく打っているのに「自分は下手だ」と判断して戦略を壊してしまう。逆に、下手なまま勝った期間を実力だと誤解する。
成績は bb/100 で測り、そのばらつきの大きさを標準偏差で表します。
| 指標 | よく使われる目安 |
|---|---|
| 勝ちプレイヤーの勝率 | 2〜5 bb/100 程度 |
| 標準偏差(ライブのフルリング) | 60〜80 bb/100 程度 |
| 標準偏差(オンライン6-max) | 80〜100 bb/100 程度 |
これらは一般に言われている目安で、卓やプレイスタイルで変わります。自分のデータが貯まったらそちらを使ってください。注目すべきは、ばらつきが勝率の20〜30倍あることです。この比率がポーカーという競技の性質を決めています。
「ツール」タブの分散シミュレータで、実際に体験してください。
勝率3bb/100・標準偏差80bb/100の確実に勝てるプレイヤーが1万ハンド打っても、負け越して終わることが珍しくありません。数字で見ると納得しますが、体感で理解するには走らせてみるのが早いです。
だからこそ、1回の遠征で失ってもいい額を先に決める必要があります。技術ではなく事前の設計です。
最後の一行がいちばん重要です。「勝ったか」ではなく「正しく打てたか」で復習する。結果で判断すると、分散に振り回されて何も学習できません。第1部とここまでの計算を覚える意味も、そこにあります。正しさを結果と切り離して判定できるようになるということですから。
ここまで読んだら、ドリルとツールへ。
マスを塗ると、そのレンジが全1326通りのうち何通りかを数えます。右上(スーテッド)は1マス4通り、左下(オフスート)は1マス12通りなので、面積と実態がずれることを確かめてください。
カードを順に選ぶと、あなた2枚 → 相手2枚 → ボード(0枚・3枚・4枚・5枚)の順に埋まります。残りのカードを網羅、またはプリフロップのみ30万回の無作為抽出で計算します。
あなた
相手
ボード
勝てるプレイヤーでも、どれくらい負け越す期間があるのかを走らせて確かめます。1000回ぶんのキャリアを模擬し、うち24本を描きます。
迷った手をその場で1件だけ記録しておき、あとでまとめて見返すための場所です。結果ではなく、そのとき何を考えたかを書くのがコツ。ブラウザ内にだけ保存されます。