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ポーカー

テキサスホールデム。ルール・役・確率の計算から、相手の手を集合として数える技術まで。

第1部

ポーカーの初歩

ルール・役・用語・確率の計算まで、だいたい1時間ぶん。

01 ゲームの流れ

自分だけが見える手札(ホールカード)2枚と、全員で共有する場の5枚(コミュニティカード/ボード)。この7枚から最良の5枚を選んで役を作り、強さを競います。

  1. ブラインド投入SB・BBの2人だけが強制的にチップを出す
  2. ホールカード配布自分だけが見える2枚
  3. プリフロップ場にカード0枚の状態でベッティング
  4. フロップ場に3枚を同時に開く → ベッティング
  5. ターン4枚目 → ベッティング
  6. リバー5枚目 → ベッティング
  7. ショーダウン残った人が手札を開示して決着

「プリフロップ・フロップ・ポストフロップ」は並列ではありません。

フロップの前か後かで全体を2分するのがプリフロップ/ポストフロップ。その「後」の内訳がフロップ・ターン・リバーです。ポストフロップは3つのラウンドをまとめた呼び名。

アクションは5種類しかない

用語意味選べる条件
フォールド降りる。出したチップは戻らないいつでも
チェック賭けずにパス未払いの賭け金が無いときだけ
ベットそのラウンドで最初に賭ける未払いが無いとき
コール直前の額と同額を出して継続ベットがあるとき
レイズ上乗せして賭けるベットがあるとき

ベットがある状況ではチェックできません。フォールド・コール・レイズの3択になります。

ブラインドとポジション

ディーラーボタンが1周ごとに時計回りに移動し、その左がSB(スモールブラインド)、さらに左がBB(ビッグブラインド)。この2人だけが強制ベットを出します。「強制参加費を払ったり払わなかったり」するのはこの仕組みです。

フロップ以降は常にSBから順に行動し、ボタンが最後。後に行動できるほど相手の情報を見てから決められるので有利です。これをポジションと呼び、後に動ける側をインポジション(IP)、先に動く側をアウトオブポジション(OOP)と言います。

「ボタンでは広く、アーリーポジションでは狭く参加する」というレンジ表は、この原理を表に落としただけのものです。

ショーダウン:見せる/見せない

  • リバーのベッティングが終わって2人以上残っていれば、最後にベット/レイズした人から先に開示します。
  • 全員がチェックで終わった場合は、そのラウンドで最初に行動する人から時計回りに開示。
  • 開示された手より弱いと分かった人は見せずに捨てられます(マック)。これが「見せたり見せなかったり」の正体。
  • フォールドした人は最後まで見せません。
  • 逆に、ポットを取るには開示が必要です。例外は、全員が降りて自分ひとりになった場合だけ。

オールインとサイドポット

チップが少なくても、オールインにコールできます。

テーブルステークス制により、その場に持っているチップ以上は賭けられず、要求されることもありません。持ち分だけ出して「オールインでコール」となり、相手の超過分は他のプレイヤーとのサイドポットとして分離されます。あなたは自分が拠出した範囲(メインポット)だけを争います。

つまり、チップ量で押し潰される構造にはなっていません。

02 役の強さ

強い順に9段階。暗記は不要です。出現確率が低い順に強いという一本の原理で導けます。

順役形7枚での出現率
1ストレートフラッシュ同スートで5枚連続0.031%
2フォーカード同ランク4枚0.168%
3フルハウス3枚+2枚2.60%
4フラッシュ同スート5枚3.03%
5ストレート5枚連続4.62%
6スリーカード同ランク3枚4.83%
7ツーペア2枚+2枚23.5%
8ワンペア同ランク2枚43.8%
9ハイカードどれでもない17.4%

最上位のストレートフラッシュ(A-K-Q-J-10)をロイヤルフラッシュと呼びますが、役の種類としてはストレートフラッシュの一部です。ハイカードの出現率がワンペアより低いのは、7枚もあるとペアが揃ってしまうためです。

覚えておくと迷わない点

  • ストレートは A-2-3-4-5 も成立します(ホイール)。このときAは1として扱い、最も弱いストレートになります。
  • 同じ役どうしはランクで比較します。フラッシュ同士なら最も高いカードから順に比較。
  • 7枚のうち使うのは5枚だけ。手札を1枚も使わず、場の5枚がそのまま役になることもあります(その場合は全員が同じ役なので引き分けになりやすい)。

03 計算:ここが核心

エクイティ(equity)

今の時点で、残りのカードがランダムに出たときポットのうち自分が取れる期待割合。単なる勝率に、引き分けの按分を含めたものです。

下の数値は、残りの全ボードを網羅して計算した実測値です。

対戦前者のエクイティ網羅したボード
A♠A♥ vs K♦K♣81.26%1,712,304通り
A♠K♠ vs Q♦Q♣46.21%1,712,304通り
A♠A♥ vs 7♦2♣87.42%1,712,304通り

注目すべきは2行目です。最強クラスのAKでも、QQ相手には5割を切ります。ポーカーが「強い手を持てば勝つ」ゲームではない理由がここにあります。

アウツ(outs)

自分の手を勝ちに変えてくれる、まだ見えていないカードの枚数。フロップ時点で同スートが4枚揃っていれば、残りの同スートは9枚なので9アウツです。

形アウツ
フラッシュドロー(同スート4枚)9
オープンエンドストレートドロー(両端が伸びる)8
ガットショット(内側1枚だけ足りない)4
ポケットペアからスリーカードを狙う2

4-2ルール

アウツ数 × 4 = リバーまでに完成する確率(%)の概算。残り1枚しか見ないなら × 2。近似式ですが、実測との誤差を確認しました。

ドロー実測(リバーまで)×4実測(次の1枚)×2
フラッシュドロー(9)35.0%36%19.1%18%
オープンエンド(8)31.5%32%17.0%16%
ガットショット(4)16.5%16%8.5%8%
ポケットペア(2)8.4%8%4.3%4%

誤差1%以内。暗算で十分実用に耐えます。

ポットオッズ(pot odds)

コールに必要な額 ÷ コール後のポット総額 = 勝つために最低限必要な勝率。

ポットが100、相手のベットが50のとき——

コール額は50。コール後のポット総額は 100 + 50 + 50 = 200。
必要勝率 = 50 ÷ 200 = 25%。

手持ちのエクイティが25%を超えていればコールが得、下回れば損です。

よくある間違いは、分母を「相手のベットを含めたポット(150)」にしてしまうこと。自分のコール額も分母に入ります。

エクイティ > ポットオッズ ならコール。ポーカーの計算は、ほぼこの一行に集約されます。

EV(期待値)

各結果の損益 × 確率の総和。上の比較は、コールのEVがプラスかマイナスかを判定しているにすぎません。ポーカーの全判断はEV最大化に還元されます。

04 戦略とお金の語彙

用語意味
レンジ相手が持ちうるハンドの集合。「相手はAKだ」ではなく「この集合のどれかだ」と考える。上達の分水嶺
ドロー未完成だが、あと1枚来れば強くなる形
メイドハンドすでに完成している手
ナッツその場面で作りうる最強の手
バリューベット自分より弱い手にコールさせて利益を取るベット
ブラフ強い手が無いのに、相手を降ろす目的で打つベット
リンププリフロップでレイズせず、BBと同額だけ払って参加すること
3bet再レイズのこと。BBの強制ベットを1betと数えるので、最初のレイズが2bet、その上が3bet
GTOゲーム理論的最適。相手が何をしても搾取されない均衡戦略
エクスプロイト相手の偏りを突く戦略。均衡から意図的に外れる
BB表記持ちチップをビッグブラインド何個分かで表す。100BBがディープ、40BB以下は浅い
レーキ/コレクション店の取り分。カリフォルニアの店はポットの割合を取れず、定額で徴収する
バンクロールポーカー専用の資金。生活費と分離して管理する

ここには入れていないもの:プリフロップのレンジ表。

「どのポジションでどの手を打つか」の表は、出典と前提(スタック深度・徴収構造・相手の傾向)を確定してから入れます。出所不明の数値を正解として暗記すると、検証できない基準を身につけることになるためです。

第2部

ポーカーの次の一歩

第1部が「1つの手をどう扱うか」なら、ここは「相手の手を集合として数える」技術。すべて算術で導けます。新しく出てくる言葉は、各章の最初にまとめて説明します。

05 コンボ:ハンドを「数」で数える

第1部では「相手が何を持っているか」を考えませんでした。ここからが本番です。

初心者は「相手はAKだ」と1点で当てにいきます。上級者は「相手はこの集合のどれかで、その中でAKは16通り、AAは6通り」と数で考えます。この章では、その「16通り」「6通り」がどこから来るのかを、カードを並べて確かめます。

まず表記:AA・AKs・AKo の読み方

ポーカーでは手札2枚を、ランク(数字)の文字を並べて書きます。大きいほうを先に書き、10は1文字にそろえるため T と書きます(例:AT はAと10)。

このときスート(♠♥♦♣のマーク)そのものは書きません。代わりに、2枚のマークが同じか違うかだけを、末尾の1文字で表します。

AA 同じランクが2枚
(ポケットペア)
AKs マークが同じ
s = suited(スーテッド)
AKo マークが違う
o = offsuit(オフスート)
ポケットペア
手札の2枚だけでできているペア。ボードのカードと組んでできたペアとは区別する
AK(s も o も無し)
AKs と AKo をまとめた呼び方。マークは問わない
コンボ
マークまで区別した、具体的なカード2枚の組み合わせ。A♥K♥ と A♠K♠ はどちらも AKs だが、別のコンボ

つまり「AKs」はハンドの種類の名前で、その中に具体的なカードの組み合わせ(コンボ)がいくつか入っています。次に、それを全部並べてみます。

1つの種類に、コンボは何通りあるか

AA:6通り

Aは♠♥♦♣の4枚。そこから2枚を選ぶ組み合わせは 4 × 3 ÷ 2 = 6通り。A♠A♥ と A♥A♠ は同じ手なので、2で割ります。

AKs:4通り

マークが同じなので、決めるのは「どのマークでそろえるか」だけ。マークは4種類なので 4通り。

AKo:12通り

Aのマークが4通り、Kはそれと違うマークの3通り。4 × 3 = 12通り。AKs のちょうど3倍です。

ここから出てくる、直感を裏切る事実。

AKo は 12通り、AA は 6通り。つまりAKoはAAの2倍配られやすい。AKs と AKo を合わせた AK 全体なら16通りで、AAの約2.7倍です。

相手が強気に振る舞ったとき「AAを持っているかも」と怯えがちですが、数のうえではAKのほうがずっとありそう。これが第1部04章で触れた「レンジ(相手が持ちうるハンドの集合)で考える」の第一歩です。

全体では169種類、1326通り

52枚から2枚を選ぶ組み合わせは 52 × 51 ÷ 2 = 1326通り。これを上の表記でまとめると 169種類になります。種類ごとにコンボ数が違うので、種類の数と通り数は比例しません。

種類1種類あたり種類数合計
ポケットペア(AA, KK…)6通り1378
スーテッド(AKs…)4通り78312
オフスート(AKo…)12通り78936
合計—1691326

ペアはランクの数だけあるので13種類。ペアでない2つのランクの選び方は 13 × 12 ÷ 2 = 78 で、そのそれぞれにスーテッドとオフスートがあります。

13×13のマス目(レンジ表)

169種類を一覧にするとき、ポーカーでは13×13のマス目を使います。縦と横にA〜2のランクを並べ、交わるマスに1種類を置きます。左上の一部だけを切り出すと、こうなります。

対角線:ポケットペア(1マス6通り) 右上:スーテッド(1マス4通り) 左下:オフスート(1マス12通り)

同じ2つのランクでも、対角線の右上に s、左下に o のマスが1つずつあります(AKs と AKo は対角線を挟んで向かい合う位置)。「ツール」タブのコンボ電卓は、これを13×13全部に広げたものです。

マスの大きさは同じでも、右上は1マス4通り、左下は1マス12通り。マスの面積で見ると実態を見誤ります。左下を少し塗るだけで、レンジに含まれる通り数は急激に増えます。

06 ブロッカー:自分の1枚が相手の可能性を削る

コンボで数えられるようになると、次の効果が見えます。自分の手札やボードに見えているカードは、相手の手札には入っていないということです。同じカードは1枚しかないので当たり前ですが、数えると効果はかなり大きい。

実例:ボードに A♠ が出ているとき

ボード

相手のAA:6通り → 3通り

A♠ はボードにあるので、A♠ を使う3通り(線を引いたもの)は相手の手札としてありえません。残るのは A♥・A♦・A♣ の3枚から2枚を選ぶ 3通りです。

相手のAK:16通り → 12通り

残っているAは3枚、Kは4枚。3 × 4 = 12通り。

見えているカードが増えたときの通り数をまとめると、次のようになります。

見えているカード相手のAA相手のAK(全体)
なし6通り16通り
A が1枚3通り12通り
A と K が1枚ずつ3通り9通り
A が2枚1通り8通り

数え方はいつも同じで、残っている枚数から組み合わせを作るだけです。AAなら残りのAから2枚を選ぶ(残り3枚なら3通り、残り2枚なら1通り)。AKなら残りのAの枚数 × 残りのKの枚数。

Aが1枚見えるだけで、相手のAAは半分に減ります。2枚見えれば6分の1です。このように、見えているカードが相手の組み合わせを削る効果をブロッカーと呼びます。そのカードが相手の手を「ブロックしている」という意味です。

実戦での使い方。

自分がAを1枚持っているとき、相手が AA や AK のような「Aを含む強い手」を持っている通り数は減っています。つまり相手が強い手でコールしてくる可能性が下がるので、そこはブラフ(強い手が無いのに、相手を降ろすために賭けること)に向いた場面です。

逆の場面もあります。相手がブラフに使いそうなカード、たとえばフラッシュを狙って届かなかった手を自分が持っていると、相手がそのブラフを持っている通り数を減らしてしまいます。相手のベットが本物である割合が上がるので、コールの価値は下がります。

ブロッカーは「なんとなく強そうな手を持っている」という感覚とは別に効きます。手の強さではなく、相手の可能性を何通り削ったかで判断するのがポイントです。

07 ブラフの損益分岐点

ここから3章は、ベットサイズ(賭ける額の大きさ)が決めてしまうことの話です。すべて中学レベルの式から出てきます。

P
賭ける直前のポット(場に積まれたチップの合計)の額。Pot の頭文字
B
自分が賭ける額。Bet の頭文字
1/3ポット
ポットの3分の1の額を賭けること。ポット90なら30。「1/2ポット(ハーフポット)」「ポットサイズ(ポットと同額)」も同じ言い方
損益分岐点
損も得もしない境目。これを上回れば、繰り返すほど得が積み上がる

ブラフが成立する条件

ポットが100、そこに100をブラフで賭けるとします。

  • 相手が降りれば、ポットの100を取る
  • 相手がコールすれば、賭けた100を失う(ブラフなので勝てない)

相手が降りる確率を s とすると、1回あたりの損益の期待値(第1部03章のEV)がゼロになる点は——

期待値 = s × 100 − (1 − s) × 100 = 0 → s = 50%

数字を P と B に置き換えます。降りてくれたら P を得て、コールされたら B を失うので——

s × P − (1 − s) × B = 0 → s = B ÷ (P + B)

この「ブラフが損得ゼロになるために、相手が降りる必要のある割合」を α(アルファ)と書きます。

必要成功率 α = B ÷ (P + B)

例:ポット90に、1/3ポットの30を賭けるなら α = 30 ÷ (90 + 30) = 25%。4回に1回降りてくれれば元が取れます。

ベットサイズ相手が降りる必要のある割合 α
1/3ポット25.0%
1/2ポット33.3%
2/3ポット40.0%
ポットサイズ50.0%
2倍ポット66.7%

小さく賭けるほど、ブラフは成立しやすい。「大きく賭けるほど強そうに見えるから得」ではありません。大きく賭けるほど、要求される成功率も上がります。

08 MDF:降りすぎという最大の漏れ

MDF
Minimum Defense Frequency(最低防御頻度)。相手のベットに対して、最低これだけは降りずに続けるべき、という割合
防御
ベットされたときに降りず、コールかレイズで続けること
漏れ(リーク)
長く打つほど損を積み上げていく、プレイの癖
搾取される
自分の癖を相手に見抜かれ、そこを突かれて一方的に損をすること

前章を守る側から見ると、そのまま裏返しになります。

相手のブラフは、あなたが α 以上の割合で降りてくれると儲かります。だから相手のブラフを儲けさせないには、降りる割合を α 未満に抑える、つまり 1 − α 以上は続ければいい。これが MDF です。

最低防御頻度 MDF = 1 − α = P ÷ (P + B)

例:ポット100に、相手が50(1/2ポット)を賭けてきた。α = 50 ÷ 150 = 33.3% なので、MDF = 100 ÷ 150 = 66.7%。同じような場面が3回あれば、2回は降りずに続けるのが基準です。

相手のベットα(相手の必要成功率)MDF(あなたが守る最低割合)
1/3ポット25.0%75.0%
1/2ポット33.3%66.7%
2/3ポット40.0%60.0%
ポットサイズ50.0%50.0%
2倍ポット66.7%33.3%

初心者の最大の漏れは、ここです。

1/2ポットのベットに対して、必要な防御は3分の2。ところが雰囲気でプレイしていると、いい手のときだけコールするので防御率は3割を切ります。

そうなると相手は手札を見ずにベットするだけで勝てます。ブラフが7割成功するなら、必要な33.3%を大きく超えているからです。

ただし、MDFは義務ではない

ここは正確に書いておきます。MDFは「相手がどんな手でもブラフしてくる」という最悪の前提で、搾取されないための下限です。現実の相手は違います。

  • 相手がブラフをほとんどしないなら、MDFより多く降りてよい(MDFより多く降りることをオーバーフォールドと言い、この相手には正解になる)
  • 相手がブラフしすぎなら、MDFより多く守るべき

つまりMDFは基準線であって、目標値ではありません。それでも最初に覚える価値があるのは、初心者の卓では自分がこの線を大きく下回っている(=降りすぎている)ことがほとんどだからです。まず基準線に近づけるだけで漏れが埋まります。

09 バリューとブラフの比率

バリュー
バリューベットの略。自分より弱い手にコールしてもらって儲けるための、強い手でのベット(第1部04章)
ベットレンジ
ある場面で自分が賭けるときに、持っている可能性のある手の集合全体。強い手(バリュー)とブラフの両方が入っている

今度は自分がベットする側の話。強い手だけを賭けていると、相手は「ベットされたら降りる」だけで対応できてしまいます。かといってブラフばかりでは、コールされ続けて破綻する。

ちょうどいい比率は、相手にとってコールしてもしなくても損得が同じになる点にあります。相手がコールしたときに勝つ確率(=あなたのベットのうちブラフの割合)が、相手のポットオッズとぴったり一致すればいい。

例:ポット100に、ポットサイズの100を賭ける。相手は100を払って、ポット100+あなたの100+自分の100=300を取りにくるので、相手に必要な勝率は 100 ÷ 300 = 33.3%(第1部03章のポットオッズ)。あなたのベットのうちブラフがちょうど33.3%なら、相手はコールしてもしなくても損得が変わりません。

ベットレンジに占めるブラフの割合 = B ÷ (P + 2B)
ベットサイズブラフの割合バリュー : ブラフ
1/3ポット20.0%4 : 1
1/2ポット25.0%3 : 1
2/3ポット28.6%2.5 : 1
ポットサイズ33.3%2 : 1
2倍ポット40.0%1.5 : 1

「4 : 1」は、強い手で賭ける4回につきブラフを1回混ぜる、という意味です。

大きく賭けるほど、ブラフを増やしてよい。ポットサイズで賭けるなら、バリュー2回につきブラフ1回。1/3ポットの小さいベットでブラフばかり混ぜるのは、比率として成立しません。

これはリバー(最後のカードが出たあと)での話です。まだカードが残っている段階では、ブラフが後から本物の手になる可能性があるので、もう少しブラフを増やせます。

3章まとめ:ベットサイズは3つを同時に決める

ベットサイズブラフの必要成功率相手のMDFバリュー:ブラフ
1/2ポット33.3%66.7%3 : 1
2/3ポット40.0%60.0%2.5 : 1
ポットサイズ50.0%50.0%2 : 1

サイズを選んだ瞬間に、これら全部が決まります。「なんとなく大きめに」は存在しません。

10 SPR:どこでコミットするか

スタック
そのプレイヤーの手元にあるチップの量
有効スタック
自分と相手のスタックのうち少ないほう。相手が500持っていても自分が120なら、このハンドで動くのは最大120まで
コミット
そのハンドで持ちチップを全部入れる覚悟を決めること
SPR
Stack to Pot Ratio。有効スタックがポットの何倍あるか

ここまでは1回のベットの話でした。実際には「このハンドで全チップを入れる覚悟があるか」を、フロップの時点で決めておく必要があります。その物差しがSPRです。

SPR = 有効スタック ÷ フロップ時点のポット

例:フロップの時点でポットが20、自分のスタックが60、相手が200なら、有効スタックは60。SPR = 60 ÷ 20 = 3。

手の強さを表す言葉

下の表で使う言葉を、実際のカードで確認しておきます。太い枠が手札、細い枠がボードです。

トップペア ボードでいちばん高いカード(K)と、手札の1枚でペアを作る
オーバーペア ボードのどのカードよりも高いポケットペア
セット ポケットペアと、ボードの1枚でスリーカード

ナッツは第1部04章のとおり、その場面で作りうる最強の手です。

SPR状況全部入れてよい手の目安
〜3浅い。数回のベットで尽きるトップペアでも十分
4〜10標準的オーバーペア、セット以上がほしい
13〜深い。大きく振れるナッツ級を目指す

この区分は理論的な導出ではなく、経験則です。境界の数字は文献や書き手によって多少ぶれます。

大事なのは数字そのものより、方向です。スタックが浅いほど弱い手でコミットしてよく、深いほど強い手を要求される。理由は単純で、深いときは相手も強い手でしか大金を入れてこないからです。

LAの低いレートのゲーム(ローステークス)は、卓に着くときに持ち込めるチップの額(バイイン)に上限があり、有効スタックが浅くなりがちです。SPRが低い卓では、トップペアで全部入れる判断が正当化されやすい——このことを事前に知っているかどうかで、現地での迷いがかなり減ります。

11 エクイティ実現:なぜポジションが効くのか

エクイティ実現
持っているエクイティ(ポットのうち取れる期待割合、第1部03章)を、実際の利益として受け取りきること。受け取れた割合を実現率と言う
ドロー
あと1枚来れば強くなる、未完成の手(フラッシュまであと1枚、など)
ボタン/アーリー
ボタンはフロップ以降に最後に行動できる席。アーリー(アーリーポジション)はボタンから遠く、プリフロップで早く行動しなければならない席

第1部で「エクイティ>ポットオッズならコール」と書きました。実はこれには但し書きがあります。

35%のエクイティを持っていても、35%ぶんの利益をそのまま受け取れるとは限りません。受け取るには、最後のカードまで見せてもらう必要があるからです。

先に行動する側(アウトオブポジション=OOP)で起きること

  • チェックすると、相手はいい手のときだけ賭けてくる
  • 賭けられると、ドローのまま降ろされる
  • 自分から賭けると、弱い手には全部降りられ、強い手にだけ付き合われる

結果、持っているエクイティを取り切れないまま手が終わります。これを「エクイティを実現できていない」と言います。

後に行動する側(インポジション=IP)で起きること

  • 相手がチェックしたら、ただでカードをもう1枚見られる
  • 相手が弱そうなら、そこで賭けて降ろせる
  • 降りるべきときは、相手の行動を見てから降りられる

同じ35%でも、受け取れる額が変わります。むしろ35%以上の価値が出ることすらある。

「ボタンでは広く、アーリーでは狭く」の本当の理由がこれです。

手の強さが変わるからではありません。同じ手でも、受け取れるエクイティの量がポジションで変わるから、参加してよいラインが動くのです。

実現率が具体的に何%になるかは、相手の傾向やボードによって変わります。方向(OOPで下がり、IPで上がる)だけ押さえておけば、実戦の判断には足ります。

12 分散:LAに行く前に知っておくこと

分散
結果が実力どおりの平均からどれだけばらつくか。ここでは「運による振れ幅」くらいの意味で使う
bb/100
100ハンドあたり、ビッグブラインド(BB)何個分を勝ったか。レートの違う卓でも成績を比べられる。例:BBが2ドルの卓で100ハンド打って6ドル勝てば 3bb/100
標準偏差
ばらつきの大きさの目安。結果が平均の前後に正規分布で散らばると見なすと、100ハンドごとの収支はおよそ3回に2回が「平均 ± 標準偏差」の範囲に収まる
フルリング/6-max
フルリングは9〜10人で打つ卓。6-max は最大6人の卓

最後は技術ではなく、結果の読み方の話です。実際にお金を賭けるなら、ここを飛ばすと技術の伸びが測れません。

ポーカーの1回ごとの結果は、実力とほとんど関係なくばらつきます。勝てるプレイヤーでも、数千ハンド単位の負け越しは普通に起きます。これを知らないと、正しく打っているのに「自分は下手だ」と判断して戦略を壊してしまう。逆に、下手なまま勝った期間を実力だと誤解する。

ばらつきの大きさ

成績は bb/100 で測り、そのばらつきの大きさを標準偏差で表します。

指標よく使われる目安
勝ちプレイヤーの勝率2〜5 bb/100 程度
標準偏差(ライブのフルリング)60〜80 bb/100 程度
標準偏差(オンライン6-max)80〜100 bb/100 程度

これらは一般に言われている目安で、卓やプレイスタイルで変わります。自分のデータが貯まったらそちらを使ってください。注目すべきは、ばらつきが勝率の20〜30倍あることです。この比率がポーカーという競技の性質を決めています。

「ツール」タブの分散シミュレータで、実際に体験してください。

勝率3bb/100・標準偏差80bb/100の確実に勝てるプレイヤーが1万ハンド打っても、負け越して終わることが珍しくありません。数字で見ると納得しますが、体感で理解するには走らせてみるのが早いです。

バンクロール管理

だからこそ、1回の遠征で失ってもいい額を先に決める必要があります。技術ではなく事前の設計です。

  • ポーカー用の資金を生活費と完全に分ける
  • 負けたら追加せず、その日は終わる金額を先に決めておく
  • 勝った負けたを1回ごとに評価しない。判断が正しかったかで評価する

最後の一行がいちばん重要です。「勝ったか」ではなく「正しく打てたか」で復習する。結果で判断すると、分散に振り回されて何も学習できません。第1部とここまでの計算を覚える意味も、そこにあります。正しさを結果と切り離して判定できるようになるということですから。

ここまで読んだら、ドリルとツールへ。